呪いの紅い人形
その人形を見つけたのは、街外れの骨董店だった。
埃まみれの棚に並ぶ無数の品々の中で、ひときわ目を引く存在感を放っていた。全体が深い紅に彩られた和装人形。その顔は異様なまでに精巧で、目がこちらをじっと見つめているように感じられた。店主はそれに気づいたのか、静かに近寄ってきた。
「それは、誰も買いたがらない代物です。美しいでしょう?でも……代償が大きい。」
その言葉に引き寄せられるように、僕は人形を手に取った。ひんやりとした陶器の感触。衣装の絹の柔らかさ。すべてが異様に生々しい。「代償って、どういう意味ですか?」と尋ねると、店主は首を振り、ただ「扱いには気をつけなさい」とだけ言った。
家に持ち帰った後、僕はその人形をリビングの棚に飾った。不気味さは感じつつも、どこか魅了されている自分がいた。その夜、何かが変わり始めた。
深夜、どこからともなく微かな音が聞こえた。カタ……カタ……。時計の針が動く音だと思おうとしたが、違った。もっと不規則で、どこか生き物の気配を伴っている。
目を凝らすと、人形の瞳が光を帯びているように見えた。そんなはずはない。鼓動が速くなり、背中に冷たい汗が流れる。
「ただの人形だ。」
自分にそう言い聞かせ、部屋を後にしようとした。その瞬間、背後からはっきりとした声が聞こえた。
「なぜ、私をここに連れてきたの?」
振り返ると、人形は棚に座ったままだ。だが、その目は確実に僕を見ている。声は幻聴だと思いたかったが、心の奥底に刺さるような痛みが広がった。逃げ出したい衝動を抑え、僕は人形に近づいた。
それから数日間、奇妙なことが続いた。部屋の中で物が動いたり、誰も触れていないはずのドアが開閉したり。そして何より、人形の姿が微妙に変わっている気がしてならなかった。ある日は微笑んでいるように見え、別の日は怒っているようだった。
ある夜、夢の中で僕は暗い空間に立っていた。無数の人形が僕を取り囲み、じっと見つめている。その中心に、あの紅い人形がいた。彼女の声が響く。
「私を放さないで。」
目が覚めると、人形がベッドの脇に座っていた。置いた覚えのない場所に、無造作に。
耐えられなくなった僕は、人形を捨てることを決意した。車に乗せ、遠くの川辺に放り投げた。しかし翌朝、リビングの棚に人形は戻っていた。その顔には、確実に笑みが浮かんでいた。
数日後、ニュースが耳に飛び込んできた。川辺で、かつて僕を侮辱した職場の上司の遺体が見つかったという。一人目だった。
次の日、耐え切れなくなった僕は山奥へ人形を捨てに行った。しかし、翌朝にはまた棚に戻っている。そして、その捨てた場所で学生時代に僕を虐めていたクラスメートの遺体が発見された。
三度目は、もっと遠くへと車を走らせ、人気のない海辺に人形を投げ捨てた。戻ってくるはずがないと思ったが、やはり彼女はリビングの棚に戻っていた。その夜のニュースでは、ご近所トラブルで揉めた隣人が海辺で遺体として発見されたという報道が流れた。
僕はついに思った。「次は、最も嫌いなあいつだ。」
その考えに取り憑かれるように、人形を車に乗せ、再び遠くの山中へと捨てに行った。これで、奴が消えてくれればすべてが終わる。そう信じていた。
しかし、翌朝流れたニュースは、僕の最も親しい友人の死を告げるものだった。
「どうして……?」
頭が真っ白になった。その瞬間、人形の瞳が再び光を帯びた気がした。その光は、確実に冷笑しているように感じられた。
それ以来、彼女を捨てることはなくなった。彼女は僕の秘密であり、僕の呪いだ。この家で彼女と二人きり、永遠に抜け出せない檻の中にいるような気分だ。
「代償」とは、こういうことだったのだろう。


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