深夜の静寂に包まれたリビングで作業をしていた私は、違和感を覚えた。それはどこからか、耳をかすめるような声だった。
「助けて…」
それははっきりとした女性の声だった。しかし、家には私以外誰もいない。テレビも消えているし、スマートスピーカーも使っていない。最初は疲れているせいだろうと思ったが、その声は何度も繰り返された。
「助けて…」
恐怖心が募る中、声の出どころを突き止めようと耳を澄ませた。どうやらリビングの隅、古びたタンスの方向から聞こえてくるようだ。私は意を決してタンスを開けた。タンスの扉が軋む音とともに、幼い頃に使っていた古い人形が姿を現した。どこかほこり臭いその中には、明らかに不釣り合いな冷気が漂っていた。手に取ると、人形の瞳がこちらをじっと見ているような錯覚に陥る。そして次の瞬間、人形の口元がかすかに動き、また声が響いた。
「助けて…」
それが現実だったのか、幻覚だったのか。翌日、タンスごと人形を処分したが、それ以降も夜中になると微かにあの声が耳元で囁くようになった。引っ越しを決意して新しい場所へ移ったものの、声は追いかけてくるように続き、私は次第に睡眠も取れなくなった。きっとこのままでは、私は頭がおかしくなってしまうだろう。それでも、どうすることもできないと諦めつつある自分がいた。

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