誰もいないはずの部屋で

住居の怪異

新しく借りたアパートは古い建物だったが、家賃が安く、広さもちょうどよかった。引っ越し初日、部屋に荷物を運び込んでいると、背後で物音がした。

「パタンッ」

振り向くと、ドアが半開きになっている。風が強いせいだと思い気にせずにいたが、その夜、さらに奇妙なことが起きた。

シャワーを浴びている最中、浴室の外で足音が聞こえたのだ。誰かが歩き回る音。しかし、家には誰もいない。恐怖で身動きが取れなくなった私は、シャワーを止めて耳を澄ませた。

足音がやむと同時に、耳元で囁くような声が聞こえた。

「ここは私の家だ。」

慌てて浴室を飛び出し、部屋を確認したが誰もいない。その夜、寝つけずに過ごした私の夢には、見知らぬ人々がこの部屋で私を見下ろしている光景が浮かび上がった。翌日、不動産屋に相談すると、担当者は驚いた表情を浮かべて言った。

「実は、その部屋、以前の住人が…失踪しているんです。」

それ以来、部屋にいると視線を感じることが多くなった。今では、誰もいないはずの部屋で、足音や囁き声が日常のように響くようになっている。そして最近では、夢の中で見知らぬ人々の声が理解できるようになってきた。彼らは次の住人について何かを話しているようだ。そして私は、彼らの一員として次の住人を見下ろす準備をしている自分に気づいた。もはや恐怖ではなく、義務感のように感じているのが不思議だ。

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